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帽子屋狂

 
 

「――やっぱりへんだわ妙ちきりんだわ。
 貴方が幾ら帽子屋だとしても、
 其の帽子には幾らの値段もついてないのだもの。
 売りものでもない帽子を御茶会で被った侭だ何てとんだルール違反!
 ――けれど、
 わたしから貰ったものはわたしの命令無しでは外せやしないはず。
 だからこれは、わたしからのコジキなプレザンというわけ――
 ね、帽子屋さん」







――"コイキ"だ馬鹿。
其の盲目さ故に唯上擦る声を抑えて頷くだけで精一杯だったあの頃では言葉にする事が出来なかった突っ込みを消化すれば頭上のシルクハットの鍔に指先を滑らせて、時折山を登り谷に落ちる指先に過ぎて行った時を実感して唯苦笑した。彼女が贈った想い出の品だから、と愛着と依存心から被(すが)り続けていたが流石に買替え時で在り諦め時なのかもしれない――否、実際そうなのだろう。何せもう10年だ、既に買替え時を大きく過ぎているとさえ云える(幾人のマドモアゼルに棄てろと謂われたものか最早覚えていない)。帽子屋が帽子を買う何て滑稽だからと言い訳して今迄避けていた買替えでは在るが、良い機会だ。彼女の想い出はガラスケエスに仕舞い込み、大先生の店にでも行こう。そうだな――次の帽子はもっと唾が広い物が良い。少女の見上げる視線だけを受け入れ独占し、他を拒み退ける物が、



ドン、と鈍い音と共に感じた痛みに恍惚さえ含まれた其の独白は強制終了した。


「――――ッが」

嗚呼――そもそもの話、こんなにも人気の無い路地で"人とぶつかり合う"何て事は、――有り得ない事なのだけれど――其れにしてもあからさまに故意的な、"タックル"に近しい其の強い衝撃に思わず蹌踉めくも、座り込むのだけは必死に堪え、咄嗟に腿と腹を探る。賑わう街角ならともかく此処は"下層"なのだ。下層で故意的にぶつかられた場合"スリ"か"通り魔"の可能性が高い――が、其の心配を余所に財布は確り其処に存在し、疵は全く存在して居なかった。然し其れでも安堵感を抱く事が出来ないのは俺が明らかな喪失感を感じているからだ。

其処で其の理由を確かめる為に走り去る犯人を振り返る。
――少し大きめな黒色のコートを纏う見慣れた後ろ姿、彼の余りにも恵まれて居ない身長を補う其れ、は。

「――こンのウカレ野郎俺の帽子返せええええええええ!!!!」



思わず叫んだ言葉に重ねられる青年の笑い声は下層に響き渡り、そして緩やかに遠ざかって行った。



******

「其れでまた買替え時を逃したというわけ。
 ねえきみ其れは最早彼女の呪いか何かじゃあ――嗚呼嗚呼、
 まぁたそんな満更でも無さそうな顔をして!
 あのねえきみ其れは一途を通り越して未練がましいよ。
 そのねえきみ此れは未練がましいを通り越してビョーキだよ。
 だからそろそろきみ――嗚呼嗚呼、聞いちゃあいない!」

三月兎と呼ぶよりウカレウサギのがしっくりくる。
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